コミケを風疹から守り隊

2012年8月12日日曜日

腫瘍とは何か(良性腫瘍と悪性腫瘍、及び、放射線と癌との関係について)

初回公開日:2012年08月12日
最終更新日:2012年08月13日
(2012年8月13日更新:誤字訂正しました。被爆→被曝)


1.はじめに

以前「上皮性腫瘍と非上皮性腫瘍との違い」というテーマの記事を書きました。この記事は、細々とではありますが、継続的にアクセスを頂いている様です。腫瘍についての情報を欲している人がいらっしゃるのかもしれません。そこで、今回は上記記事の前提となる「腫瘍とは何か」及び、そこから派生する「腫瘍の良性と悪性」について書いてみます。

また、応用編として「放射線と甲状腺癌などとの関係」についても触れたいと思います。これはまた、片瀬久美子さんの記事「放射線の健康影響をめぐる誤解」(SYNODOS版はこちら復興アリーナ版はこちら)などをお読みになって「甲状腺の過形成と良性腫瘍、悪性腫瘍(癌)との違いについて、もっと知りたい」と思われた方のお役に立てば、と思って書いた記事でもあります。

2.腫瘍とは何か

臨床の医師は時々「単なる腫れ物」という程度の意味で「腫瘍」という言葉を使ったりします。これは厳密に言えば不正確な表現なのですが、現実問題としては仕方が無い部分もあります。何故なら、臨床医の診察に於いては、未だ診断が確定していない場面でも、その病変に何らかの名前を付けて呼ばなければ、非常に不便だからです。うるさい事を言えば「臨床診断は腫瘍」とか「腫瘍の疑い」とか呼ぶべきでしょうが、それでは煩雑なので、単に「腫瘍」と言ってしまう事もあるのです。

しかしここでは、病理学的に、できるだけ正確で、かつ、なるべく簡単な定義を試みてみましょう。
腫瘍とは「体を構成している細胞が自律的・無目的的に増殖する事」です。ここで「自律的とは、他からのコントロールを受けないという事」であり「無目的的とは、増殖する事に意味は無いという事」です。
う~ん、これでもちょっと解り難いですね(笑)
却ってややこしくなるかもしれませんが、もう少し詳しく説明してみます。

私達の身体は、元をただせばたった1個の受精卵、つまり1個の細胞です。それが何度も何度も分裂を繰り返して増殖し、私達の体を作っています。また、今こうしている間にも、私達の体内では古い細胞が死んで新しく増殖してきた細胞と入れ替わる「代謝(の一種)」が日常的に起こっています。
これらから解ります様に、私達の体を構成する細胞は全て、分裂増殖を行う能力を潜在的に有しています。但し、この能力は、通常では体内できちんとコントロールされています。即ち、必要な場所で必要に応じて細胞の分裂増殖が起こり、必要が無くなれば止まります

具体例を挙げましょう。
普通は髪の毛や爪は伸び古い皮膚は垢になって剥がれ落ちます。これは増殖により増えた細胞が古いものと入れ替わっていくからです。一方で、突発的な異常事態が起きると、例えば怪我をして皮膚が欠損したりすると、周囲の細胞が増殖し欠けた所を埋めて修復されます。修復が完了すれば、細胞の増殖は止まります。この様に、通常は必要に応じたコントロールが行われています。
しかし腫瘍では、このコントロールが失われます。即ち、腫瘍細胞は必要も無いのに勝手に増殖しますし、増殖する事に何か目的がある訳でもありません。強いて言えば「増殖する事そのものが目的」とでもなるでしょうか。つまり、腫瘍細胞は酸素や栄養のある限り増殖し続け、それらの供給が不足しても、ただ死んでいくだけであり、生き残った腫瘍細胞は更に増え続けようとします。

という風に「コントロール不能で無限に増え続ける」というのが腫瘍の最大の特徴なのです。

では何故、増殖のコントロールが失われるのでしょうか。
これもなるべく簡単に一言で申し上げれば「個々の細胞における遺伝子の異常が蓄積していった結果」だと言えます。
既に述べた通り、我々の細胞には増殖をコントロールする機能があります。具体的には、増殖を促進する物質や、増殖を抑制する物質によってコントロールされています。そうした増殖関連の物質を、我々の体自身が(必要に応じて)作り出している訳です。つまり、我々の遺伝子の中には、そうした物質の設計図があらかじめ全て存在しているのです。
さて、様々な原因により、個々の細胞で遺伝子に傷が付いていくと、その傷の付き具合によっては、増殖を促進する物質が異常に多く作られる様になったり、増殖を抑制する物質が作られなくなったりします。勿論、これらの物質には多くの種類がありますし、遺伝子のどこに傷が付くかにもよりますし、更に修復機能もありますから、多少傷付いたところで、すぐに腫瘍になる訳ではありません。
しかし、遺伝子に傷を付ける様な因子(ウイルス感染、各種の化学物質、紫外線、そして放射線 etc.)に晒され続けると、あちこちの細胞で少しずつ遺伝子の傷が増えていきます。そして、どれかの細胞で遺伝子異常の蓄積が限度を越えると、最終的には腫瘍の発生に繋がる事になります。
但し「程度問題」だという事は、くれぐれも忘れないでください。

これに関連して「腫瘍と過形成との違い」についても少し書いておきます。
過形成とは「細胞が反応性に増殖する」事です。
「細胞が増殖する」という点に於いては腫瘍と類似ですが「増殖する何らかの原因があり、それに反応して増殖している」という点が大きく異なります。
原因があって増殖しているので、腫瘍の様な遺伝子の異常がある訳ではありません。
これは、後で出てくる「被曝と甲状腺癌との関係」を考えるうえで重要なポイントですので、出来れば覚えておいてください。

3.「腫瘍の発生」と「遺伝子異常が子供に伝わる事」との違い

さて、ここで、どうしても強調しておきたい事があります。
それは「貴方の体で細胞の遺伝子に傷が付いて腫瘍が発生する」と「貴方の子供に放射線由来の遺伝子異常が伝わる事(つまり突然変異です)」とは、全く意味が異なる点です。但し、妊娠初期の被曝には、これらとはまた別のリスクがあります(この点に関する詳細は、以前に書いた記事「放射線、デマ、そして分断」の冒頭を参照してください)。
例えば、明らかに腫瘍の発生確率が高まる程度の放射線を浴びてしまったとしましょう。
その場合「腫瘍発生の確率が高くなる」というのは「貴方の体を構成する60兆個の細胞のうち、どれかの細胞の遺伝子に傷が付いて腫瘍細胞になる確率が高くなる」という意味です。腫瘍細胞も最初は1個ですが、上記の如く無限に分裂増殖しますから、どんどん大きくなっていく訳です。繰り返しますが「最初は60兆個のうちのたった1個」です。
一方、子供に遺伝子異常が伝わるとはどういう事かと言いますと、受精卵を形成する1個の精子と1個の卵子のどちらかに異常があるという事ですよね。これも「たった1個」です。
ちょっとややこしいですが、少し考えてみてください。

60兆個のうち、どれか1個が腫瘍細胞になって、貴方の体に腫瘍が発生します。
しかし、子供に遺伝子異常が伝わる為には、60兆個の細胞のうち、受精卵となるたった1個にピンポイントで遺伝子異常が起こらなければなりません。

極めて大雑把かつ乱暴な計算ですが、子供に遺伝子異常が伝わる危険性は、どれかの細胞に異常が発生する確率の60兆分の1とも言えるのです。
勿論、現実には他にも様々な要素があるので、この計算は正確ではありません。我々の体には遺伝子の異常を修復する機能や、腫瘍細胞を殺す機能(免疫の一種です)があり、一方で受精卵の元になる精子や卵子を選別する機能も存在します。
ですから、数字を出しておいて何ですが「60兆分の1」というのは極めて不正確な数値であり、実際には、もう何桁か少ないかもしれません。しかし、少なくとも、子供に遺伝子異常が伝わる確率は、腫瘍が発生する確率に比べても極端に少ないという点だけは確かです。
これが「たとえ腫瘍の発生を心配しなければならない程の被曝をしてしまった場合でも、被曝後の妊娠で胎児に遺伝子異常が増える心配まではしなくても良い」理由です。そんな心配をしてしまうと、心配事が増えた為の精神的ストレスで健康を害する可能性の方が遥かに遥かに高いのですから(精神的ストレスを馬鹿にしてはいけませんよ)。
そしてこれは、上にもリンクしました記事「放射線、デマ、そして分断」の冒頭で書いた内容を補足するものでもあります。
念の為に申し上げておきますが、遺伝子の異常による先天異常も、胎児形成の障害による先天異常も、たとえ原発由来の放射線の影響がゼロであったとしても、ある程度の確率で起こります。この事は、世界に原発が存在する以前からずっと、先天異常の子供達が生まれてきている事実からも明らかです。ですから「福島では絶対に先天異常が発生しないと言えるのか」とか「奇形児が生まれたら責任を取れるのか」という様な意見を言う人は、もう少し先天異常の発生について理解して頂きたいと思います。

参考までに、植物に人工的に放射線を当てて突然変異を起こさせる放射線育種場(ガンマーフィールド)を紹介しておきます。こちらのページによると、線源は88TBq(88兆ベクレル)であり、線量(率)は5Gy/d~0.02Gy/dとなっています。ここから言える事は2つあります。


1)植物は高等動物に比べて放射線に強いので、これほどの線量を当てられる。
  5Gy/dの線量とは、我々人間だったら、そこに1日居ただけで、急性障害により死んでもおかしくないレベルです。


2)植物は高等動物よりも突然変異を起こし易いが、それでもこれだけの線量を必要とする。
  単位が違うので単純には比較できませんが、流石に60兆倍とまではいきません。しかしそれでも、「子孫に伝わる遺伝子異常(突然変異)を起こす為には、原発事故で問題となっている被曝量より桁違いに多い線量が必要である。そして、そんな線量を浴びたら、植物ならいざ知らず、高等動物は突然変異を起こす前に死んでしまう」という点は、御理解頂けるかと思います。

4.腫瘍の分類

腫瘍の話に戻りましょう。
腫瘍の分類は、大雑把に2つの観点からなされます。1つは、冒頭にリンクした過去記事にも書きました通り「上皮性と非上皮性」という分け方、そしてもう1つは「良性と悪性」という分け方です。この2つの観点から、腫瘍は大きく4つに分類されます。即ち、
  • 上皮性良性腫瘍(腺腫など。いわゆる胃や腸のポリープの一部がここに含まれます)
  • 非上皮性良性腫瘍(線維腫や脂肪腫など)
  • 上皮性悪性腫瘍(狭義の「癌」)
  • 非上皮性悪性腫瘍(肉腫)
の4種類です。
上皮性腫瘍と非上皮性腫瘍との違いは過去記事で述べた通りですので、次項では良性と悪性との違いについて述べる事にします。

5.良性腫瘍と悪性腫瘍の違い

さて、いよいよ今回のハイライトである、良性と悪性との違いです。ここでも、まずはなるべくシンプルに述べる事にしましょう。良性と悪性に関して皆さんが漠然と抱いているイメージ、それが案外正しいという話です。
良性と悪性との違いを一言で述べれば「放置し続けた場合に死ぬか死なないか」です。これが本質です。つまり「放っといたら死ぬから悪性、放っといても死なないから良性」なのです。これは直感的にも解り易い分類でしょう。
しかし。
当然ながら、現実には「放っといて死ぬか死なないか確認しましょう」などという訳にはいきません。
現実には、死ぬ場合と死なない場合での、腫瘍の性質の違いを見極める必要があります。

そこで「悪性腫瘍によって死ぬ」という現象を突き詰めて考えますと、そこには大きく2つの要素が関与している事が解ります。1つは「腫瘍の増殖により、周囲の正常な組織が破壊される事(浸潤性増殖)」であり、もう1つは「離れた場所に腫瘍が飛んで、そこでも増殖を始める事(転移)」です。
この2つの要素により、腫瘍周囲の組織は徐々に破壊され、更に放置すると、体のあちこちで同様の状況が同時進行的に発生し、最終的には死に至る事になります。
つまり、この浸潤性増殖と転移こそが、悪性が悪性である最大の特徴だと言えます。

逆に言えば、腫瘍であってもこれらの特徴を持たないのが良性腫瘍だと言えます。即ち、大きくなっても周囲の組織を圧迫するだけで破壊したりはしません(但し、腫瘍が発生した場所によっては、圧迫によりマズい事態が生じる場合もありますが、それはまた別の問題です)。勿論、転移も起こしません。
ですから、良性腫瘍そのもので死ぬという事は無いのです。

でも、油断は禁物です。
たとえ良性であれ腫瘍が発生しているという事は、腫瘍の内部で、ある程度遺伝子異常が蓄積している状態です。ですから、腫瘍が増殖していくと、その中の一部の細胞に更に遺伝子異常が加わって悪性化する事もあり得ます。少なくとも、通常の細胞が悪性腫瘍になるよりも、ずっとハードルは低い訳です。
また、上に少し述べた様に、腫瘍の発生部位によっては、取り除かないと危険な場合もあります。
くれぐれも、安易な自己判断は避けてください。

6.甲状腺の機能・構造・疾患について

ここからは、甲状腺の話です。
内部被曝と甲状腺癌との関係を述べる前に、前提となる甲状腺の機能と構造について、簡単におさらいしておきましょう。
甲状腺とは、甲状腺ホルモンを作る為の臓器です。甲状腺ホルモンは我々の体に様々な作用を及ぼす物質ですので、多過ぎても少な過ぎても病気になります。甲状腺の細胞は幾つも集まってごく小さな袋を形成し、その袋の内側に作った甲状腺ホルモンを貯めておきます。そうした小さな袋(これを「濾胞」と呼びます)が沢山集まって甲状腺という臓器を形成しています。逆に言えば「甲状腺とは甲状腺ホルモンを容れた多数の濾胞から成っている」と表現する事も出来ます。
そして、この濾胞の中に溜まっている(甲状腺ホルモンを含む)物質の事を「コロイド」と呼びます。いわゆるコロイドとは少し意味が違いますが。

以上の点を踏まえて、甲状腺の病変について概説します。


1)良性・非腫瘍性病変
  最も多いのは「腺腫様甲状腺腫」です。この名称は非常にややこしいので、よく単語の構造を見て頂きたいと思います。「腺腫・様・甲状腺・腫」です。これを漢文と見て書き下しますと(笑)「腺腫の様な甲状腺の腫れ」となります。「腺腫の様な」とは「実は腺腫ではない」という意味です(腺腫とは、上にも書きましたが、次項で述べる「良性腫瘍の一種」です)。
どうしてこんなにややこしい名称になっているかと言いますと、おそらくこれは「adenomatous goiter」という英語を直訳したせいではないかと思います(確認していないので推測ですが)。
では、この「腺腫様甲状腺腫」の実体は何かと申しますと、上に書きました「過形成」の一種であると考えられます。即ち反応性の増殖であり、腫瘍とは異なるものです。具体的には大小の濾胞が集まっている病変であり、周囲の甲状腺組織との間に明確な境界はありません。
そしてまた、腺腫様甲状腺腫は、二次的に出血や変性等の変化を起こして嚢胞化する事があります。甲状腺には真の意味での嚢胞(先天性に存在する無害なものです)は少ないので、甲状腺に認められる嚢胞の多くは、こうした二次的な嚢胞であると考えられます。
ここで、嚢胞と濾胞とを混同すると、ややこしくなってしまうので注意してください。ごく大雑把に言うと、嚢胞は肉眼でも見える大きさ、濾胞は顕微鏡を使わないと見難い大きさのものだと考えれば良いでしょう。

2)良性・腫瘍性病変
  甲状腺の良性腫瘍の殆どは「腺腫」です。腺腫とは、腺細胞から発生する良性上皮性腫瘍です。腺細胞とは、何らかの物質を分泌する機能を持っている細胞です。甲状腺の濾胞細胞は、甲状腺ホルモンを分泌して濾胞内にコロイドとして貯める機能を持っているので、腺細胞の一種なのです。
そして、この腺腫も、出血や変性により二次的に嚢胞化する事があります。

3)悪性・腫瘍性病変
  甲状腺の悪性腫瘍の大部分は、癌(上皮性の悪性腫瘍です)。非上皮性の悪性腫瘍(悪性リンパ腫など)も発生しますが、頻度としては低いものです。上記の如く、甲状腺を構成する細胞の殆どは腺細胞であり、腺細胞は上皮の一種なので、悪性腫瘍も上皮性のもの(癌)が多いのです。
癌にも色々な種類がありますが、煩雑になるので割愛します。

7.何故、原発事故による内部被曝で甲状腺癌の危険性が増すのか

甲状腺は、ホルモンを作る際にヨウ素を必要とします。その為、食事などで体内に取り込まれたヨウ素は、その殆どが甲状腺に集まります。ヨウ素をとりすぎると(放射線とは無関係に)甲状腺のホルモン産生が低下してしまう危険性があるくらいです。

原発事故では、当初、放射性ヨウ素が放出されました。その代表であるヨウ素131は半減期が8日と短いので現在では殆ど残存しておらず、今後は放射性ヨウ素による新たな被曝を心配する必要はありません。ざっと計算すると、現在までに半減期の60倍以上の期間が経過していますので、1/2^60 (2の60乗分の1)以下に減少していると言えます。大雑把に 2^10≒1000=10^3 として概算しますと、1/10^18(10の18乗分の1)となります。言い換えれば10億分の1の、そのまた10億分の1であり、極めて微量である事が解ります。ですから「殆ど残存していない」と言えるのです。
しかし、半減期が短いという事は逆に言えば、事故直後の短期間に集中して放射線を出したという事でもあります。従って、事故後の早い時期に放射性ヨウ素を摂取してしまった場合、それが甲状腺に集まり、そこで短い期間の間に放射線を出した事になります。つまり甲状腺が集中的に内部被曝し、甲状腺細胞の遺伝子が傷付きました。時間の経過により放射性ヨウ素が無くなったとしても、遺伝子の傷が完全に修復される訳ではありません。

以上をまとめますと、事故当初の早い時期に放射性ヨウ素に曝露された人の甲状腺では、通常よりも遺伝子に傷が付いた細胞の比率が高くなっていると考えられます。
これが、放射性ヨウ素の内部被曝により甲状腺癌の発生確率が上がるという事の意味です。

既に述べた様に、癌は遺伝子の傷が「蓄積して」発生します。そして、実は、自然界には遺伝子に傷を付ける要素が無数に存在します。ですから、放射線によって遺伝子に傷が付けられると、その後の蓄積により癌が発生する確率が高くなるのです。
強調しておきたいのは、あくまで確率が上がるのだという点です。先天異常に関してもそうですが、全ては程度の問題であり、確率の問題なのです。

ところで、甲状腺の癌は、他の臓器の癌に比べても、どちらかと言えば対処し易い部類に入ります。ですので、検査や観察を継続的に行い、発見して治療に繋げて行く事が大切です。

8.甲状腺エコー検査の解釈

甲状腺のエコー(超音波)検査で、病変を見つける事が出来ます。基本的にエコーでは肉眼で見える大きさのものを見ているので、顕微鏡の様に拡大して見るのは困難です。ですから、エコー検査に於ける病変は個々の濾胞そのものではなく「嚢胞」とか「結節」と表現される事になります。
嚢胞の場合、その多くは前述の如く腺腫様甲状腺腫や腺腫が二次的に嚢胞化したものであり、一部に先天性嚢胞が含まれます。ですから基本的には、嚢胞性病変は良性であると言って良いのです。勿論、何事にも例外はあるので「絶対」とは言えません。ですので継続的な検査が大切なのです。
結節性病変の多くも、腺腫様甲状腺腫や腺腫です。しかし中には癌の症例が混じっている可能性もありますので、疑わしい場合には、穿刺吸引細胞診(針を刺して細胞を取ってきて、細胞検査士と病理医が診断します)などを行ったりして、更に詳しく調べます。

なお、原発の影響がゼロの場合でも甲状腺癌は発生します。通常であれば、ある程度大きくなるまで気付かなかったり、あるいは気付く前に他の病気で亡くなったりする場合もあります(他の病気で亡くなった方を病理解剖した際に、小さな甲状腺癌が発見される事があります)。
福島県では今後、多くの方々を対象にして継続的に甲状腺の検査が行われますので、上記の様な通常では気付かないレベルの甲状腺癌も発見されると推測されます。その為、検査をきっちりやればやるほど、見かけ上は福島県で甲状腺癌が増えている様に見えてくるかもしれません。しかし、上記の理由により、本当に増えているかどうかの判断には慎重になるべきです。

9.謝辞

このエントリのきっかけとなった記事を書いてくださった片瀬さん、ガンマフィールドの情報をTwitter上で呟いてくださった小比良さん、たかさん、その他多くの有用な情報を提供してくださっている皆さん、そして、何時もサポートしてくれる妻に、感謝を申し上げます。

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6 件のコメント:

  1. お早うございます。

    文脈から考えて、

     被爆→被曝

    ではないかと思いました(10箇所。特に「被爆量」や「内部被爆」)。

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    返信
    1. >TAKESANさん
      ああぁぁ、やってしもうたぁorz
      いや、御指摘に感謝します。
      こういうのは本当に有り難いです。

      この際ですから、全ての読者の方に申し上げます。
      私は、間違いを指摘して頂けるのは、とても有り難く大切な事だと思っています。勿論、万全を期して記事を書くのは当然ですが、それでも神ならぬ人の身、ミスをゼロにする事は出来ません。ですから御指摘は有り難いのです。そしてこれは、科学の世界における「ピアレビュー」の考え方に通じるものでもあります。
      そもそも、誰からもツッコミが入らなくなったら「裸の王様」になってしまいますからね。

      という訳で、Twitter上で同様の御指摘を下さったe10goさんにも、改めて御礼申し上げます。

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  2. はてブコメの話。
    これまでにもありましたが、否定的なブコメをつける人に限って、ちゃんと記事を読んでいないものですね。

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    1. ついでにもう一言。
      用語の使い方を見ただけで、体系的に学んだ事の無い半可通だというのが丸分かりです。
      悪い事は言わないから、これ以上の恥を上塗りする前に、手に余る事は止めておきなさい。

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  3.  看護学生です。来週から皮膚科の実習にいくにあたって、腫瘍のことについて事前学習しようと思ったのですが教科書にはさらっとしか書いておらず、わかりにくかったのでこのブログを読ませていただきました。
     医療職者ではなく一般の方でもとてもわかりやすいものになっていると感じました。以前の実習で受け持ちの患者様のご家族が、疾患についてインターネットで調べていると話しを聞いたことがありました。インターネットでさまざまな情報をえることができる現代では、このような疾患をわかりやすく説明してくださるブログがあるととても助かると思いました。
    これからも頑張ってください。失礼いたしました。

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    返信
    1. >匿名さん
      コメント有難うございます。看護学生さんでいらっしゃるのですね。このブログがお勉強の役に立ったのであれば、とても嬉しいです。
      実を言いますと、この記事は、私自身が看護学校で講義している内容をベースにして、それを更に噛み砕いたものです。ですからその意味では(手前味噌ですが)勉強するのに適していると言っても良いでしょう。

      ただ、どうしてもネット上の情報は玉石混交と言いますか、いい加減でデタラメな情報を載せる人も居ます。そうした人達の中には、現役の医師や大学教授も含まれているのが厄介です。そうしたデタラメな情報に惑わされずに、正しい情報を拾い出さなければなりません。

      では、どうしたら良いのでしょうか。
      絶対確実な方法はありませんが「こうした方が、より正しい情報に近づける」という方法なら、幾つかあります。
      1つは、書かれている内容が「筋が通っているか、矛盾していないか」です。その場しのぎでいい加減な事を書いていると、どうしても矛盾を起こしやすくなります。その場合は書いてある内容がおかしいと判断出来ます。
      2つめは、不自然に感情を煽る様な書き方には注意すべきです。かく言う私自身も、デタラメを撒き散らす人に対する怒りの余り強い言葉を使ってしまう時もありますが、極力冷静に書く様に心掛けています。無闇に読み手の感情を刺激する様な文章は、一歩引いた立場から内容を吟味する姿勢が大切です。
      そして3つめは「複数のソース(情報源)を比較する」事です。この場合、ネット上の情報源だけだと、同じものを別々の人がコピペしている場合もありますから、オリジナルの情報源はどこなのかを調べる必要があります。そして可能であれば、ネット外の情報と比較する事も大切です。例えば今回の様に教科書の記載と比べてみるとか、あるいは信頼出来る相手にネットの情報を見せて意見を聞くとかしてみるのも良いと思います。
      怪しげな情報に惑わされずに、良い看護師になれるのを期待しています。頑張ってください。

      最後に、ひとつお願いです。私のブログでは匿名のままでのコメントは御遠慮頂きたいと思います。もし次回コメントされる事がありましたら、その際にはハンドル(ペンネーム)を決めて頂ければと思います。勿論、本名である必要はありません。「どのコメントをどなたから頂いたのか解る様にしておきたい」という方針でおりますので、御協力をお願い致します。

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