初回公開日:2011年07月06日
最終更新日:2012年08月13日
(2012年08月13日追記:この記事の姉妹編とも呼べる「良性腫瘍と悪性腫瘍、及び、放射線と癌との関係について」を書きました。そちらも併せて御覧ください)
1.これまでのお話
先日、Twitter上で「癌と『がん』との違い」について連続で呟きました。御覧になりたい方は、_taka51さんがTogetterにまとめてくださったものがこちらにありますので御参照ください。
一応、こちらでも簡単にまとめ直しておきます。
1)腫瘍の分類は「良性vs悪性」「上皮性vs非上皮性」の2軸により4つに大別される。
2)元々「癌」という言葉は上皮性悪性腫瘍を指す言葉だった(非上皮性悪性腫瘍は「肉腫」と呼ぶ)。
3)ここ数十年の間に、上皮性・非上皮性を問わず悪性腫瘍全般を「がん」と呼ぶのが一般的になった。
4)これにより「がん」という言葉に広義と狭義の2種類の意味が含まれる様になった。
5)そこで(あくまで個人的な使い分けとしてであるが)私は、上皮性悪性腫瘍のみを指す場合には漢字で「癌」と表記し、悪性腫瘍全般を指す場合は「がん」とひらがなで表記する様にしている。この様にしておけば、一般的な用法と齟齬をきたさない形で上皮性悪性腫瘍を表現できると考えたからである。
6)ちなみに、実は上皮性悪性腫瘍を指す言葉として「がん腫(癌腫)」という用語がある。しかし、この言葉は医療関係者の間でも通りが悪く、却って混乱を生じると思うので、あまり使わない様にしている。
繰り返しますが、あくまでこれは個人的な使い分けです。
2.その後の展開
上記の一連の呟きをしてから程無く、tigayam2さんからこの様なツッコミを頂きました。このツッコミの鋭いところは2つあって、1つは「中皮」という存在を出してきたところ、そしてもう1つは「上皮か中皮か区別できないとき」という状況を指定してこられた点です。
とは言え、これだけでは何の事だか解らない方もいらっしゃるでしょうから、折角ですので、もう少し詳しく述べてみます。
3.中皮とは何か
中皮とは簡単に言うと、胸膜や腹膜の表面を敷き詰めている細胞です。胸膜は胸部臓器(主に心臓と肺)を包んでいる膜であり、腹膜とは腹部臓器の一部(胃・小腸・大腸・肝臓など)を包んでいる膜です。これらの膜の表面に中皮細胞が敷き詰められています。
ここで「上皮とは身体の表面を敷き詰めている細胞である」という点を思い出してみましょう(御存じ無い方は、冒頭にリンクしたTogetterの記載を御覧ください)。「表面を覆う」という役割が共通していますので、上皮と中皮とは非常に良く似た性質を持っています。
この中皮から発生する腫瘍が「中皮腫」であり、悪性の場合は「悪性中皮腫」と呼ばれます。中皮は上皮ではないので、一応は「非上皮性腫瘍」という事になりますが、上記の如く上皮と非常に良く似た性質を持っていますので、非上皮性と言い切るのにも抵抗があります。
つまり、中皮とは生体の中でもユニークな存在であるが故に、上皮性とも非上皮性とも言い難いと考えています。従って悪性中皮腫は「癌」とも「肉腫」とも言い難く、あくまで「悪性中皮腫」と呼ぶのが最も適当であるという考えを持っています。
実際、中皮腫には幾つかのバリエーションがあります。上皮の性格を強く持つ「上皮型中皮腫」、非上皮の性質が前面に出た「肉腫型中皮腫」、そしてこれら双方の性質を併せ持つ「二相型中皮腫」などがあります。
勿論、いずれも悪性の場合には広義の意味での「がん(悪性腫瘍全般)」に含まれる訳ですが、それにしても、なかなかややこしい存在である事には違いありません。
4.更にややこしい話
続いて「上皮か中皮か区別できない場合」について述べます。中皮腫は腹膜よりも胸膜に発生する事の方が多いです(アスベストがリスク因子になります)。胸膜から発生した上皮型中皮腫が肺に進展した場合と、肺から発生した肺癌が胸膜に進展した場合とでは、見分けるのが難しい場合が出てきます。
組織型(細胞の配列や顔付き、分化傾向など)や、細胞が作っている物質(細胞骨格成分や粘液など)を調べる事により区別できる場合が多いですが、それでも見分けが付き難い場合も残ります。
大抵の場合は見分けが付くので、上記の様な例は決して多くはありません。それでも、そうした症例に遭遇した際には「肺癌か中皮腫か区別がつかない」と言うしかない事も起こり得ます。
この様な時に「解らない」と言うのは勇気がいります。実質的に違いが無いのなら、自信たっぷりに言い切ってしまった方が、言う方も言われた方も楽になるだろうな、とか思ったり。でも私は「それって、逆に不誠実な態度なのではないか」という気持ちの方が強いのです。
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