コミケを風疹から守り隊

2015年10月11日日曜日

「消費税軽減税率の財務省案」はどこが酷いのか?(その1)

初回公開日:2015年10月11日
最終更新日:2015年11月30日


1.はじめに

2015年9月、財務省の消費税軽減税率に関する案が報道されました。内容が猫の目の様にクルクル変わって解り難いうえに、結局この案は見送られそうな勢いです。ここで改めて当初の案を振り返るならば、例えばこちらをご覧ください。簡単に言うと

食料品の税率は8%に据え置く。
一旦10%分の税金を支払い差額を後日還付する。
還付額集計の為に買い物ごとにマイナンバーカードをレジで提示する。
還付額には上限がある。

というものです。この、当初の財務省案(以下では「本案」と書きます)には、一言では言い表せない程、欠点が満載です。そこで、本案そのものやその周辺にみられる欠点を列記した上で、その背後にあるものまで考えてみたいと思います。
なお、例によって(私の悪い癖ですが)書いているうちにどんどん長くなってしまいそうなので、とりあえず書けた部分から分割して公開する事にします。「全部書きあがってから」などと言っているといつになるか解りませんので(爆)。
(11月30日追記:ようやく続編を書きました。末尾にリンクを貼りましたので、そちらから御覧ください。)

2.財務省案そのものの欠点

1)現在の日本の状況では消費税増税は明らかな悪手であり愚策
これが最も大切な論点です。そもそも景気が悪い時に増税するべきではないのです。我々は既にこれまでに2回(3%→5%、5%→8%)も「消費税増税による景気の腰折れ」を経験している筈です。これでも懲りずに更に増税しようなどと、正気の沙汰ではありません。
増税して景気が悪くなるとGDPが減りますから、期待したほど税収は増えません。下手すれば減ってしまいますし、それこそが今起ころうとしている事なのです。一方、減税しても景気が良くなればGDPが増えますから、それほど税収は減りません(増える事すらあります)。
長くなるので今回は詳しく書きませんが、増税必要論者が最も大きな理由に挙げがちな「財政健全化」もっと言えば「財政破綻の危険」という理由も間違い、はっきり言えば増税の為の詭弁、嘘です。

2)事務処理の増加
財務省の説明によれば、本案は「複数税率にすると事業者の事務負担が増えるので、それへの対策」だという事です。しかし、この説明は明らかに変です。何故なら、もし本案の通りに実施されたとしても、最大の事務負担増要素とされ問題になっている「インボイスの発行」が無くなる訳ではないからです。しかもそのうえ「全ての店に新たにマイナンバー読み取り幾を導入し買い物の度に客にカードを使ってもらい、データを当局に提出する」となる訳です。一体、これの何処が「事務負担の軽減」だというのでしょうか。私には負担増にしか見えません。もしも「一旦機械を導入すれば後はオンラインで全て自動化されるので事務負担が軽減される」という仮定をおいたとしても、現場における煩雑さの増加は避けられないでしょう。
更に、事務負担の増加を言い訳にするつもりなら、既に複数税率を普通に導入している他国はどうだというのでしょうか。IT(特にコンピュータシステム)が今ほど進歩していない頃から複数税率を導入している国々があるのですが、それらの国では事業者が事務負担増で苦しみ続けているのでしょうか。麻生財務大臣は「複数税率は面倒臭い」と言って財務省の援護射撃を行った様ですが(以下のTweetを見ても解る通り)自らの見識の無さを曝け出しただけだと思います。

都合の良い時だけ(例えば消費税率そのものを問題にする時とか)海外の状況を引き合いに出すのに、都合の悪い時には知らんぷりですかそうですか。
なお、海外の例で言うなら例えばデンマークでは消費税25%で軽減税率はありません。しかし大使館のFacebookを見れば解りますが、そこにははっきりと「低所得者への配慮は社会保障給付によって行う方が効率的」「慈善活動や文化活動、非営利活動などにより提供されるサービスなどは非課税」と書かれています。これはこれで一つの見識でしょう。もしもデンマークを例に挙げるのならば、こうした点にもしっかりとコミットすべきですが、実際にはどう見てもそうなっていません。なので、しつこいですがもう一度書きましょう。
都合の良い所だけ海外の状況を引き合いに出すのに、都合の悪い所には知らんぷりですか?

3)システムの運用への不安
まず「買い物の際にマイナンバーカードを提示」という運用だけ見ても大問題です。そもそもマイナンバーとは「他人に知られてはマズい番号」です。ですから欧米などでは「他人に見せないのは勿論、どうしても必要な時以外はカードの持ち歩き自体もしない方がよい」という運用をとっています。
しかし本案では「マイナンバーが記載されたカードを買い物する度に提示ないし読み取りをしろ」という訳です。個人情報保護とかセキュリティという概念からは真っ向から対立しています。確かに元々セキュリティと利便性は二律背反(あちら立てればこちら立たず)なのですが、それにしても、これはあんまりでしょう。そしてここでも麻生財務相は「持って行きたくなければ持って行かないで良い。その代わり減税は無い」などと、問題点を意図的に無視したとも取れる逆切れ発言をしています。
そして、マイナンバーの点を別にしたとしても、これは「日本中で行われる全ての買い物の内容を集計して分類する」という、想像するだけでも膨大な情報を扱うシステムになります。これ程の巨大システムをお役所に運用させるなんて、gdgdになる事は必至です。何故なら、あれほど問題点が指摘された年金システムですら未だ完璧とは言い難い状況なのですから。なのに、それに勝るとも劣らない規模のシステムを今から新たに作って運用させようというのです。その為に新たに3千億円だかの予算を掛け、更に稼働した後にはシステム維持の為に継続的に人件費も発生する事でしょう。つまり、少々穿った見方をすれば、本案は「予算を余分に獲得したうえに天下りポストまで増やせる」案という事になります。こういうのを一言で述べると「焼け太り」と言います。

(その2)に続きます。


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