コミケを風疹から守り隊

2015年11月30日月曜日

「消費税軽減税率の財務省案」はどこが酷いのか?(その2)

初回公開日:2015年11月30日
最終更新日:2015年11月30日

この記事は(その1)の続きです。まだお読みでない方は、こちらから御覧ください。
最初に、前回分の内容を、見出しだけ掲載しておきます。

1.はじめに

2.財務省案そのものの欠点

1)現在の日本の状況では消費税増税は明らかな悪手であり愚策
2)事務処理の増加
3)システムの運用への不安

以上の内容は前回記事(その1)に書きましたので、そちらを御参照ください。
今回はその続き、つまり2.の4)からです。


4)効率の低下
本案は「一旦全額を税として納め、後日に還付金として戻される仕組み」でした。これは、当然ながら甚だ評判が悪かったです。「後で返す位なら最初から取らなければ良い」と、多くの人がそう思った事でしょう。では何故、財務省はそんな回りくどい事をしようと考えたのでしょうか。その理由は大きく2つ考えられます。
1つは次項で述べる通り、減税額に上限を設けたいからです。言い換えれば「どれほど金を使い消費税を払おうとも、1人あたり4千円以上は減税(還付)するつもりなんかない」という強い意志の表れでしょう(皮肉ですよ、勿論)。そして、それに合わせて現在行われている低所得者への「臨時福祉給付金(簡素な給付措置)」1人あたり6千円を廃止しようとしています。これは、前回も述べたデンマークの考え方(低所得者への配慮は社会保障給付による方が効率的)とは真っ向から対立するものです。これでは本案は諸外国の「悪いとこ取り」と言うしかありません(逆に言えば、税金を搾り取る側から見れば「イイトコ取り」になるという事なのでしょうね)。
そして2つめは「自らの権益を拡大する為」です。一旦払ったお金を返して貰えるとなれば有難味も増すでしょうし、仕組みを複雑にして関与する人を増やせば、利権の発生する余地も増大するというものです。

5)「上限4千円」のショボさ
「1人年間上限4千円」という事は(10%を8%に「軽減」するとして)20万円分の対象商品(食料品など?)に相当します。月あたりだと1万7千円弱ですね。これは例えば4人世帯ならいざ知らず、1人暮らしの人にとってみれば決して多い金額ではないと思います。また世帯として見た場合でも、例えば自分自身の買い物額が上限に達したかどうかを「自分で」計算し、その後は家族のマイナンバーカードを使えとでもいうのでしょうか。家族とはいえ他人のマイナンバーカードを持ち歩いて使用するのは、更にセキュリティ上問題が大きくなります。
そもそも「上限」を設けている時点で、真の意味での「軽減税率」ではありません。8%に据え置く事を「軽減」などと言うだけでもインチキ臭い(「軽減」などと口にするなら最悪でも現行より下げるべきです)のに、これでは二重のゴマカシです。
そしてこの「上限4千円」の部分は、現時点での軽減税率の議論にも引き継がれています。つまり最初から「減税額は4千億円以内」と決め付け、その枠内だけで議論させようとしているのです。

3.周辺の問題点

ここでは、財務省案そのものではなく、その周辺の問題点について述べます。

1)政治家の問題
麻生氏は前述の如く、恥ずかしい程露骨に財務省案の援護射撃をしておきながら、旗色が悪くなるとあっさり「財務省案にこだわるつもりは全くない」などと言い出し「敵前逃亡」しました。
更に自民党税調の野田毅会長が「事実上の更迭」された事もあり、10月13日の時点で本案は「事実上の白紙撤回」となりました。それは極めて小さいながらも進歩だと言えるでしょうが、これほどまでに問題点満載の案をこれまで平然と推進してきた自民党幹部の経済音痴ぶりは目を覆うばかりです。
しかし、だからと言って公明党の主張が良い訳でもありません。「還付金方式でない軽減税率」を掲げるのは(これ自体にも賛否はありますが)まぁ1つの意見として聞くとしても、前述の如く「8%への据え置き」を「軽減」と呼ぶのは何ともアホらしくてマトモに相手をする気にもなりません。そんな眠たい事しか言い続けられない党では全く期待できません。そして「軽減税率を巡る自公の綱引き」に於いては、どちらも低所得者対策費を削って財源を確保しようとする本末転倒ぶり。真の減税ならまだしも「据え置き」を維持する為にすら財源が必要だと大騒ぎするとは、どれだけ庶民の脛を齧れば気が済むのでしょうか。
更に、野党(特に民主党)もダメダメです。政府方針に反対するのがデフォかと思いきや、消費税増税に関しては率先して旗振りをする始末。庶民の事など全く考えていないのがバレバレです。大体、民主党幹部といえば、未だに「紫おばさん」こと浜矩子氏を招いて勉強会を開いている様な人達です。
浜矩子氏を知らない人の為に御説明しますと、高橋乗宣氏と一緒になって、毎年の様に「日本経済は破綻する!」という本を書いているセンセイです。


これはコラではありません。例えばアマゾンで見てみてもこんな感じです。去年出たばかりの本でも、もう中古で1円になっています。まさに「世間は正直」ですね。
しかも、上記Tweetにもある通り、高橋氏の方は何年にも渡って毎年の様に「経済破綻本」を出しているのに、唯一2008年だけは書かなかった。で、その年に何が起こったかと言えば「リーマンショック」です。つまり「何も無い時には散々経済危機を煽っておきながら、いざ本物の経済危機が起こったら知らんぷり」という態度な訳です。

なおこれらの件に関してはTwitterでも書いていますので、ここ
から始まる一連の呟きも御覧ください。

2)マスコミの問題
本案に対する批判が高まったのは、マスコミ(特に大新聞)が大きく報じたのも影響していると思います。新聞社は以前より「新聞に対する軽減税率の適用」を渇望しており、その事を隠そうともしていません。もし本案が通ってしまったとすれば、新聞への軽減税率の適用は絶望的になります。それだけは何としても避けたかった。しかし表立って財務省に反旗を翻す事など思いもよらない。
そこで、中立を装いながらも「大きく取り上げる」事で問題点がクローズアップされる様に仕向けたのではないか、そう私は疑っています。
今更言うまでもありませんが、これまで散々財務省の尻馬に乗って「増税の必要性」を煽っておきながら、いざとなると自分達だけは軽減税率と言う名のお目こぼしにあずかろうとする。身勝手にも程があろうというものです。
これではまるで、時代劇に出てくる(悪代官とつるんでる)悪徳商人みたいじゃないですか。

3)経済界の問題
経団連などは(軽減税率はともかく)以前から消費税増税そのものには賛成の立場をとっています(と言うよりむしろ積極的に推進していると見た方が良いくらいです)。増税されれば品物が売れなくなりそうなのに、どうして賛成するのでしょうか。
理由は大きく2つ考えられます。
1つは「これまで消費税の増税分が法人税(法人三税)の減税分に充てられてきた」からです。
こちらのTweetを参考になさってください。
政府や財務省やマスコミの言う増税理由、即ち「財政破綻の危険性」や「社会保障充実の為」というのが嘘である理由は幾つもありますが、これもその1つです。増税した分をそっくり他で減税していれば、財政健全化にも寄与しないし社会保障費にも充てられない。当たり前ですね。
2つめは「別に日本の消費者が買ってくれなくても(少なくとも大企業は)あまり困らない」からです。現代では多くの企業がグローバルな進出を推進しています。特にアジアの途上国は今後大きな発展が見込め、これらの国々で事業を展開する事で大きな収益が見込めます。
つまり「たとえ国内の消費が停滞(衰退)してもバーターとして法人税が減るのなら、それでもいいか」という考えも(本当にそれでいいのかどうかは別にして)成り立ちうるという事です。

4)有権者の問題
有権者とは私達の事です。仮にも日本が民主国家である以上、国の行いは主権者である私達にも責任があります。あるいは
でも、そんな事言ったって、官僚も政治家もマスコミも経済界もみんな増税派なんでしょ?会社でも新聞でもニュースでもそういう話ばっかり聞かされてたら、やっぱり増税が必要なんだって思っちゃうよ
とか思う人がおられるかもしれません。
はい、確かにおっしゃる通りです。これはとても難しい問題で、端的に言えば「正しい判断を下す為には正しい情報が絶対に必要」なのです。逆に言えば「情報を操作できれば好きな方向に誘導できる」という事でもあります。だから政府はマスコミを牛耳ろうとするのです。
しかし、だからと言って「政府もマスコミも嘘ばかりついている」と主張している人が必ず正しいとも限りません。だから困るのです。一体何を信じれば良いのでしょうか?
結局は、私達一人ひとりが自分で判断するしかないのでしょう。しかしそれはとても大変な事です。そこでここでは、幾つか判断の助けになるだろう点を簡単に書いておきます。
「なるべく複数のソースから情報を得ること」
「簡単に前言を翻したり平気で矛盾する内容を言ったりする人は信じないこと」
「お金を儲けようとしたり権力を握ろうとしたりしている人の言う事は割り引いて聞くこと」
「貴方を支配しようとする人からは距離を置くこと」
全部実行するのは難しいとは思いますが、参考にして頂ければ幸いです。

4.では、どうしてここまで酷い案を出したのか?

またまた麻生財務相の発言(2015/10/15付けTBSニュース)によれば「(軽減税率に関して)言っておきますけど、財務省は反対ですよ、本当は」だそうです。では何故こんな案を出してきたのか。それには幾つかの理由が考えられます。
(一応お断りしておきますが、この項の内容は全て私の「推測」です、念の為)。

1)増税への既定路線を盤石のものにし、国民の抵抗感を和らげる為
上記2.で述べた如く、あまりにも酷さ満載の案なので、こちらの記事にもある通り、最初はいわゆる観測気球かと思っていました。しかし、こちらの記事を見ると、どうもこの駄案自体を本気で通すつもりだったらしいのですorz
つまり両方を併せて考えるならば「消費税増税の既定路線」は何が何でも死守したい。しかし国民の抵抗が大きそうなので「税収減を最小限に留めながら譲歩した振りをする」というつもりで考案されたものではないかと推測します。
実際に、今の軽減税率に関する報道を見ていると、確かに「増税を当然の前提とした議論」が行われている様に見えます。おそらくは少なくない数の人達が「消費税増税自体はやむなし、せめて軽減税率だけでも」という気分にさせられている事でしょう。
それこそ、彼らの思う壺なのです。

2)国民・マスコミ・経済界・政治家をナメているから
財務省の権力は強大です。何故なら「どの様にお金を集めてくるか」と「そのお金をどの様に配分するか」の両方を牛耳っているからです(だからこそ「財務省から歳入庁を分離させよ」という議論がある訳です)。無論、建前では税制を決めるのも予算を決めるのも政治家の仕事です。しかしいずれの場合でも、財務省が作成した原案から大きく外れる事はまずありません。つまり「事実上の決定権は誰にあるのか」という事です。
そうした背景があるので、財務省としてはこれまで通り、政治家やマスコミに「御説明」を行い、そこから国民にアナウンスさせて話を進めるというシナリオを描いていた事でしょう。それが頓挫したのは彼等にとって誤算だった(自分達の力を過信した)のかもしれません。

3)利権の拡大と天下り先の確保
もし今回の案が通っていたとすれば、全国の小売店を結ぶシステムが誕生していた事になります。そうしたシステムの開発、及び全小売店への端末の導入を受注した企業は巨大なビジネスになった筈です。そうした背景に加えて更に「軽減税率の適用品目を何にするか」という部分も利権の温床になると考えています。
穿ち過ぎと思われるかもしれませんが「住基ネットで大失敗した天下り機関が衣替えしてマイナンバーシステムの制度設計に関わっている」とかいう話を聞いてしまうと、私には考え過ぎとはとても思えないのです。

4)国民と事業者の徹底的な管理
実は、これこそが本丸だと考えています。
私は、財務省はマイナンバーそのものには賛成(と言うよりむしろ積極的な推進)だと考えています。何故なら、全国民の収入を把握し脱税を防止する為には誠に都合が良い仕組みだからです(ちなみに「強力な脱税防止効果がある」というまさにその理由により、私もマイナンバーという仕組み自体には賛成ですが、キチンと運用できるかどうかに関しては、強い危惧を抱いています)。
なので、本当は軽減税率なんてどうでも良かった(むしろ無くたって全然構わない)のでしょう。しかし、どうしてもやると言うのなら、それを方便にしてマイナンバーを普及させようとしたのではないか。その為に考え出されたのが本案なのではないでしょうか。更に加えて、小売店の売り上げもより正確に把握できる一石二鳥のシステムにする事も併せて目論んだのではないかと睨んでいます。

5.おわりに(次回予告)

「軽減税率の財務省案」の問題点に関してはひとまずこれで終わりです。しかし、より本質的な問題が残っています。
それは勿論「消費税そのものの問題点」です。これに関して述べるだけでも一仕事ですので、また改めて記事にしたいと思いますが、ここでは主な論点だけ挙げておきます。

1)逆進性
2)景気への悪影響
3)増税理由の嘘(1):増税しなければ財政破綻?
4)増税理由の嘘(2):社会保障費増大に対応する為?
5)増税理由の嘘(3):増税すれば税収は増える?
6)海外との違い

それでは、また次回の記事でお会いしましょう(残念ながら、いつになるか解りませんが)。

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