最終更新日:2021年06月30日
1.はじめに
タイトルにも掲げたとおり、ここ何年にも渡って「少子高齢化による社会保障費の増大が国家財政を圧迫している、だから財政再建待ったなし、だから消費税増税が必要」みたいな言い回しが、ずっと言われ続けています。政治家も、役人も、新聞もTVも、あたかもこれが確定した事実の如く、当然の前提である様な顔をして口にしています。
しかし私は、初めて聞いた時から、この言い方に強い違和感を持っていました。何故なら「そもそも社会保障費とは、国民の生命や健康や生活を守る為のものである筈」だからです。言うなれば国の機能として最重要と言っても過言ではありません(逆に言えば、国民の生活を犠牲にして成り立つ様な国家など、存続すべきではありません。更に一般化して言えば、そもそも経済とは人々を幸福にする為のものであるべきなのです)。
但し「そうは言っても、もし本当にお金が無いのであれば、それは困った事だ」というのも事実です。そこで(他の事情で多少必要に迫られた事もあり)色々と勉強してみました。簿記会計の勉強(をして日商簿記2級の資格を取ったり)、ファイナンシャルプランニングの勉強(をして2級FP技能士の資格を取ったり)、マクロ経済学の勉強(具体的にはスティグリッツやクルーグマンといったノーベル経済学賞受賞者である現役経済学者の著作や教科書で勉強したり)等々を、それなりに忙しい仕事の合間を縫って、何年もかけて少しずつ学んできました。
その結果、徐々にですが、解ってきた事があります。結論から言いますと、上記の言い回しは「最初から最後まで間違いだらけの、嘘と欺瞞で塗り固められた戦後最悪級のプロパガンダである」という事です。勿論、私がいくらその様に力説したところで、流石にそれだけでは皆さんが納得するとも思えません。そこで、次節以降では「何処がどの様に間違っているのか」を順次述べていきたいと思います。
2.少子高齢化は社会保障費の増大をもたらすのか?
まず前提として、少子化と高齢化は厳密に言えば別々の現象です。全く無関係とまでは言いませんが、それぞれが単独で現れる社会もありうるからです。そこでそれぞれについて考えてみます。
1)高齢化について
確かに社会の高齢化が進行すれば社会保障費は増大する様な気がします。年を取ると体力も記憶力も落ちるし病気にも罹り易くなるからです。知識と経験である程度はカバーできるとしても限界があります。しかしここで考えて欲しいのは「高齢化が進行しているのは日本だけではない、先進国であれば多かれ少なかれどの国でも生じている事」だという点です。そして他の先進国では「高齢化の進行による社会保障費の増大が社会問題化している」などとは寡聞にして聞いた事がありません。少なくとも日本の様に政治家も役人もマスコミも口を揃えて「問題だ!」と大合唱する様な事態にはなっていない様です。一体、この違いは何処から来るのでしょうか?それについては後述します。
2)少子化について
最初に押さえておきたいのは「少子化そのものが社会保障費を増大させる訳ではない」点です。それどころかむしろ、子育ての為に社会が負担する費用(これも社会保障費の一部です)は減少する筈です。従って問題になるのは、少子化により「社会保障の担い手たる若者が減少してしまう」事だと考えます。それが端的に現れているのが年金制度でしょう。
日本の年金制度は当初「積み立て方式(自分で積み立てたお金を後で受け取る)」としてスタートしましたが、その後、賦課方式(若い人が払っているお金をお年寄りが受け取る)に移行しました。こちらの制度の下では、若年者が減って高齢者が増えるほど、負担は増し受給は減る訳です。
しかし国は(政府も行政も)本気で少子化対策に取り組んでいる様には見えません。何故なら、もし本気で少子化対策をするならば、何よりもまず「子育てしながら働き続けられる社会」の実現を目指す筈だと思うからです。しかし実際には、例えば育児休業制度や保育園の数を見ても、とても対策が十分になされているとは思えない状況です。
ではなぜ対策が不十分なのかと考えると、やはり最大の要因は「予算を付けないから」でしょう。つまり「カネが無いから仕方ない」という訳ですが、そもそもそれが嘘だという話を今ここでしている訳です。そうした嘘を許していては悪循環(社会保障費が増えると称してカネを出さない→ますます少子化対策に予算が付かない)になるばかりです。なので、何処かでこの嘘を暴いて悪循環を断ち切る必要があります。
3.社会保障費はそんなに増大しているのか?
ではここで実際の社会保障費の推移について考えてみましょう。
確かに、金額だけを見れば増え続けています。しかし「対GDP比率(GDPに対する社会保障費の割合)」を国際比較してみれば、それほどでもありません。OECD加盟国における「社会保障費の対GDP比率」を見てみると、日本はかつて最低レベルだったのが、ようやく中位まで上がってきたところです。つまり、国際的に見れば「日本の社会保障費は先進国として特に多い方ではない」と言える訳です。(この件に関しては、こちらの記事が詳しいので参考にしてください)。
あるいは「いや、そうは言っても比率でも増えているのは事実だろう。このまま行けば将来は更に大変になる」という意見があるかもしれません。確かに一理あります。しかし、ここで改めて考えてみましょう。先程も述べた通り、他の先進国でも軒並み高齢化が進行している筈なのに、日本みたいに社会保障費の対GDP比率が問題化している国はありません。一体それは何故でしょう?他の先進国と日本との違いとは何なのでしょうか?
4.必要なのは「経済成長」
他の先進国では、社会保障費が増えているのにGDP「比率」は増えていない。となれば結論は一つです。そう「GDPも増えている」からですね。言い換えれば「社会保障費の伸びに見合った速度で経済成長しているから」という事になります。
具体的に、先進国それぞれのGDPがどの位増えているか、そしてバブル崩壊後の日本がどれほどその流れから取り残されているか、についてはガベージニュースさんの記事が参考になります。をれを見ると、日本のGDPは1994年以降、20年以上に渡って(増減はあるものの)結果的には殆ど増えていません。しかしその間(米国と中国は別格としても)それ以外の先進国でもざっくり言って平均で少なくとも2倍以上に増えています。当然の話ですが、もし社会保障費が今のままでGDPが2倍になっていれば「社会保障費のGDP比率」は半分になる計算です。
という訳で、ここまでの結論としては「日本の社会保障費が増大している(様に見える)最大の原因は、30年近くに渡って経済成長がガッツリ抑え込まれているから」という事になります。
5.経済成長は国(政府及び中央銀行)の責任で行うもの
経済をコントロールするのは難しいです。しかし「持続的な経済成長が人々を幸福にする」のは先進国の共通認識です。何故なら、個人であれ企業であれ、使ったお金よりも受け取る(稼ぐ)お金の方が多くなるべきだからです。言い換えれば「収入>支出」という事ですね。これは考えてみれば当たり前の話で、もし「収入<支出」の状態(つまり赤字)が続けば破産してしまいますし「収入=支出」でも全く余裕の無いギリギリの生活という事になってしまいます。(但しこれは個人にも企業団体にも当て嵌まりますが、国だけは違います。詳しい話はまた後述します)。以上の話を違う言い方で述べれば「お金があっても幸福とは限らない。しかし、お金が無い事は様々な不幸をもたらす」となります。
従って、全て(というのが極論にしても、せめて大部分)の個人や団体が「収入>支出」の状態を保とうとすれば、社会全体としては「緩やかな経済成長を続ける」のが最適解です。という訳で、殆どの先進国では政府と中央銀行(日本では日本銀行の事)が「マクロ経済政策」を実行して景気の調整(持続的で安定した経済成長)を図っています。
具体的に述べましょう。
政府が行うのは「財政政策」です。これは政府と国民の間でやり取りされるお金(税金や補助金や公共事業の支払いなど)を通じて景気をコントロールするものです。つまり景気が悪い時には補助金の拡充や減税や公共事業の拡充を行い、景気が過熱してバブルの危険が生じたら補助金や公共事業を減らしたり増税を行ったりします。
中央銀行が行うのは「金融政策」です。これは金利の調整や国債の売買を通じて、流通しているお金の量や流通のしやすさをコントロールするものです。景気が悪い時には金利を引き下げたり国債を買入れたりして、なるべくお金が回る様にします。そして景気が過熱したらその逆を行う訳です。
6.日本の経済政策はあまりにも中途半端
この様に、財政政策と金融政策は、いわば車の両輪の様に、それぞれの立場から経済政策を行うのが当然なのですが、日本の場合は全くそうなっていません。バブル崩壊後の日本の経済政策は四半世紀以上に渡って間違い続けてきました。それを多少なりとも修正したのが「いわゆるアベノミクス」だったのです。しかしその「いわゆるアベノミクス」も極めて不十分です。何故なら表面的には「三本の矢」と称していたものの、実質的には金融政策の一本しか機能しておらず、更に悪い事には、財政政策はむしろ景気を悪くする方向にまっしぐらだからです。即ち、消費税増税や社会保険料増額により我々の使えるお金を吸い上げて消費を冷え込ませ、更に、医療・介護・福祉・教育の全てで予算を絞り各分野で働く人をどんどん貧しくさせています。
こうしたチグハグな経済政策の結果、日本の経済状況は「アクセルとブレーキが同時に踏まれている」状態になってしまいました。これが、日本の景気が十分に回復しない最大の要因です。もっとはっきり言えば、財政政策が間違っているのです。「カネが無い」と称して予算を絞り「カネが無い」と称して増税するので、折角の金融政策も効果が相殺され、景気回復も妨げられる一方です。
ではどうすれば良いのか。マクロ経済学の常識から考えれば対策は明確です。現在の日銀が行っている金融緩和を継続したうえで、そこに加えて財政出動(減税・補助金・社会保障の拡充)を行うのです。カネが無いから財政出動なんて出来ない?いいえ、お金は作れます。もっと国債をたくさん発行すれば良いのです。
こういう話をすると「国債を増やすなんて、とんでもない」という反応をする人が居ます。しかしそういう反応をする人は、長年の呪いに囚われ、騙されているのです。それは「国の借金が過去最大を更新する最悪の財政状況にある」という呪いです。この呪いがバブル崩壊後の長年に渡り日本中を覆い続けており、安倍政権の経済政策が中途半端なのも、その呪いを完全に振り払う事が出来ていないからです。
しかし、あえて「呪い」という言葉を使っている事から解る通り、それは事実無根の大嘘です。これこそ、戦時中の「大本営発表」にも匹敵する、戦後最大級のプロパガンダと言っても過言ではありません。そこで次項では、いわゆる「国の借金」について、その正体を暴いてみます。
7.「国の借金」の正体
1)誰に借りているのか?
借金と言うからには、誰かに借りている筈です。「返せなくて大変な事になる」というのも、相手があっての事ですからね。そこで誰に借りているのかを考えてみましょう。言い換えれば「誰が国債を所有しているのか」という事です。
そこで再び、ガベージニュースさんの記事(先程とは別の記事)を見てみましょう。こちらの記事の元になっているのは日本銀行の公式データです。
これを見ると国債を最も多く持っているのは民間銀行で43.3%、次に多いのが中央銀行(つまり日銀)で43.2%と、この両者で9割近くを占めています。ところで民間銀行の自己資本比率は平均10%程度、つまり「銀行が持っているお金」の大部分は我々が預金している(つまり我々が銀行に貸し付けている)お金という事になります。
以上より「誰に借りているのか」の答えは「我々国民と日銀で大部分を占める」となります。言い換えれば「国の借金」のうち4割以上は「我々国民の資産」であると言えます。もぅこれだけで「国の借金が史上最大で大変だ!」と言われても「ふ~ん、貸してるのは俺ら(と日銀)だけど?」という気分になるのではないでしょうか。
2)返してしまうとどうなるのか?
ちょっと回り道ですが、これを考える為には、そもそものお金の動きを理解する必要があります。我々が使っている日本円(紙幣)は日本銀行券、即ち日銀が印刷して発行したお金ですが、ではその日本銀行券はどうやって我々の手元に届くのでしょうか。言い換えれば、お金はどうやって日銀から外に出ていくのでしょうか。只で配る…のは、ちょっと色々と不都合が出ます。そこで日銀は「何かを買って、その代金として払う」という形で、印刷したお金を外へ出します。価値が安定しているものなら何を買っても良いのですが、なにしろ世の中に出回っているお金の量は膨大です。それほどの金銭量に見合うものと言えば、何をおいてもまず国債でしょう。
つまり国債とは、日銀が刷ったお金を世に出す為の引換証の様な役割をしているのです。従って、政府が借金を返す(国債を政府が回収する)のを、やればやるほど、世の中に出回っているお金の量が減少してしまいます。これは景気を悪くする大きな要因になります。
という訳で、実は「国の借金(一度発行した国債)は返さない」のが大前提なのです。ただ現実には、手続き上、期限の来た国債は返却(償還)されてしまいます。そこで通常は 「借り換えるのを原則」とします。つまり国は、期限の来た国債と引き換えにお金を払いますが、その払うお金(償還金)は新しい国債を発行して得たお金を充てるのが普通です。以上を単純化して述べれば「古くなった国債を新しい国債と交換するだけ」と言っても良いのです。これは日本以外の先進国では、どこの国でも当たり前に行われている事です。
3)「国の借金が返せない」なんて事が本当に起こるのか?
ここは気になりますね。「国の借金が増えて大変」と脅かす人達は「返せなくなると大変だぞ」と言っている様にも聞こえるからです。先程は「返さないのが原則」とか書きましたが「返さない」のと「返せない」のは違いますからね。
しかし結論から述べますと、少なくとも日本の現状では「借金が返せなくなる事」は絶対に起こりません。起きる筈がありません。何故なら、日本国債はそのほぼ全てが、自国通貨、つまり円建てだからです。世界中どこの国であっても(中央銀行が存在する限り)「自国通貨建ての国債が返せない」なんて事は原理的に起こりません。この事は、何とあの財務省ですら公式に認めています。
何故なら、通貨を発行して返済に充てれば良いからです。つまり前項で述べた内容を反対側から見て、日銀が紙幣を刷り、そのお金で国債を買えば終わりです。後は(形式的には)政府が日銀に対して借金をしている形になりますが、日銀は政府機関の一つなので、政府が日銀に借金をしたままでも、政府外から見れば何も、何一つ、問題はありません。
ただ敢えて一つだけ問題点を挙げるとすれば「日銀がお金を刷り過ぎると円の価値が下がりインフレが進みやすくなる」という点です。しかしそれも、今の日本ではむしろ望ましい状態と言えましょう。何故なら日銀は「2%のインフレ目標」ですら達成できずに四苦八苦しているからです。ちなみに2%という目標は、普通に経済成長している国なら何処でも達成している、いわば最低限の目標ですが、それすら出来ていないのが我が国の情けない現状なのです。
そうです。国債を増発して日銀に買い取らせれば、インフレ目標の達成は遥かに容易になります。にも関わらず「国の借金を返さなくては」などと言い続けて真逆の方向を向かせる。これはまさに「亡国の暴論」です。
4)国債が増え続けても問題無いのか?
前々項の2)で「国債は世の中に出回っているお金の引換証」という話をしました。この考えを押し進めると「国債の発行量は国の経済規模を反映する」という結論に達します。
言い換えれば、経済成長を続けていけば、それにほぼ比例する形で「国の借金」も増えていきます。実際に、日本以外の多くの国(例えばアメリカとか中国とか)でも軒並み「国の借金が過去最大を更新」しています。しかし誰もそんな事を問題にはしていません。何故ならそれこそが「経済成長の証」だからです。勿論、国の経済規模を全く無視して国債を「無制限に」増やすのは良くありません。しかしその部分「だけ」を取り出して「国債を増やすのは一切まかりならん、財政規律が乱れる」みたいな極論を振り回す人が多過ぎます。
「国の借金が過去最大を更新」などという、ある意味当たり前の内容を真面目くさって問題にしているのは、しつこい様ですが世界中で日本やドイツなど、ごく僅かな国だけです(ドイツに関しては「EUの仕組みを悪用して自分だけが美味い汁を吸っている」という批判があります)。はっきり言って国辱であり「財政規律」というNGワードを口に出した時点で、その人は無知か嘘吐きのどちらかです。
5)「借金頼みの財政」という大嘘
これも既に2)で述べた通り「期限が来た国債は償還して代わりに新しい国債を発行する」つまり古い国債は新しい国債と取り替えるので、これらは「行って来い」つまり差し引きでチャラに出来る筈です。そして実際に、普通の先進国ではその様に予算を計上しています。具体的に言えば、国債の償還金は歳出に含めず、また、それに相当する新規国債の発行分も歳入に含めません(後述)。
ところが、日本ではそうなっていないのです。つまり国債の償還金は歳出に数えるし、それに相当する新規国債の発行分は歳入に数えます。するとどうなるか。見掛け上「歳出のかなりの部分が借金の返済に使われる一方、歳入のかなりの部分が借金頼み」という形に見えてしまいます。これは「カネが無い、節約しろ、増税するぞ」と言いたい人にとっては実に都合の良い見方であり、実際マスコミ(と彼等に情報を提供する官僚)はこうした視点しか提供しません。
例えば、こちらの記事(時事ドットコムニュース )にもまさしく「借金頼みの予算編成」と書かれています。
しかし、ここまで書いた内容を理解していれば「国債費」と「新規国債発行」はお互いに打ち消し合う事が解ります。即ち「国債費」は(利息分を除けば)ゼロ、従って「新規国債発行」は約10兆円となります。それを理解したうえで改めて予算の内訳を見てみると、また違った感想が得られるかと思います。
ではここで、上に書いた「国債の償還金は歳出に含めず、新規国債の発行分も歳入に含めない」の実例をお見せしましょう。財務省が作成したこちらの資料(PDF)を御覧ください。これはドイツの財政について説明したものです。資料の10枚目(90ページ)の「図7」に歳入と歳出の内訳が書いてあります。どこをどう見ても、新規国債発行は歳入に含まれておらず、国債償還は歳出に含まれていません。国債そのものが無い?いいえ、そんな事はありません。その証拠に「利払費」はしっかりと歳出に含まれています。
更に興味深いのは次ページの「表5」とその説明です。ここには「歳出が歳入を上回る」事と「差額は公債発行や造幣収入で賄われている」事がしっかりと記されています。つまり「財政健全化を目指すあのドイツですら実質的にはプライマリーバランスは赤字であり、それを『国の借金』によって埋めているのが実態」という事です。但し勿論これは異常でも何でもありません。むしろ「プライマリーバランスは常に赤字であり、それを『国の借金』で埋めるのが当たり前」だと理解してください。つまり異常なのは、日本の財政の方なのです。
8.日本の財政状況は世界一健全
ここまで、いわゆる「国の借金」問題が嘘である事を幾つもの視点から述べてきました。こうして「国の借金」が問題にならない以上「我が国の財政状況は先進国最悪」というのも大嘘な訳です。いやむしろ、実際には、最悪どころか我が国の財政状況は世界トップクラスの健全さを誇ります。ここではその健全さを「国の借金の多寡」という以外の視点から解説しましょう。
1)日本政府は潤沢な資産を持つ
借金ばかりが問題にされますが、日本政府は沢山の資産を持っています。米国債とか、国内の一等地の不動産とかです。財務省は「これらは直ちに売れないから資産に数えてはいけない」などと言いますが、そんなのはデタラメです。本当に売る気になれば売れます。たとえ当面は売らないとしても、資産は資産です。
この事は、先日公開されたIMF(国際通貨基金)のレポートを見れば明らかです。そのレポート本体は、こちらにありますが、当然英語ですので、高橋洋一さんによる解説も紹介しておきましょう。
2)財政破綻は起こらない
財政破綻とは「借金が返せなくなる事」です。専門用語で言うと「国債のデフォルト」という表現になります。既に説明した通り、自国通貨建ての国債は原理的にデフォルトを起こしません。これがかつて米ドル建て国債でデフォルトを起こしたアルゼンチンとの決定的な違いです。また、財政危機の例としてよくギリシャを引き合いに出す人が居ますが、もぅその時点で自らの無知を恥じるべきです。何故ならギリシャはEUに加盟した事で、自らの通貨発行権を失った(つまり自国内に中央銀行を持たなくなった)からです。これこそがギリシャと日本との極めて大きな違いであり、同列に論ずるのが大間違いである理由です。
3)日本国債は世界中で大人気
この様に、客観的に見れば日本の財政は極めて健全です。この事は、きちんと経済を学んだ人の間では常識です。故に、世界中の投資家から見れば、日本国債は非常に優良な投資先です。当然、どの投資家も日本国債を喜んで買います。世界中みんなが欲しがる結果、日本国債の長期金利は世界のどの国よりも低くなっています。この様に「国債の長期金利」は、その国の財政状況を見るのに非常に良い指標です。実際に、財政状況が悪化した国は例外なく長期金利が上昇しています。
以上「日本の財政状況は世界一健全」である件に関しては森永卓郎さんによる解説も非常に参考になります。但し、末尾に挙げられているBI(ベーシックインカム)の話は、また別の論点ですので混同しない様に注意すべきです。
9.消費税増税は天下の悪行
ここでは、消費税増税が如何にダメな政策であるかを解説します。例によって理由は幾つもありますので、順番に述べていきます。
1)消費税は逆進性が強い
「逆進性」とは、低所得者ほど相対的に負担が大きくなる事です。消費税は生活必需品にも税金を掛けます。お金持ちほど収入のうち生活必需品に払う割合は低く、余ったお金は貯金や投資に回します(当然、これらに消費税は掛かりません)。つまり貧しい人ほど消費税の悪影響は強いのです。これは導入当初から指摘されている問題点ですが、これまではロクに対策されてきませんでした。いやそれどころか、消費税導入に際して物品税(ぜいたく品に掛かる税金)が廃止されています。まさしく「金持ち優遇」としか言えない所業です。
2)軽減税率とかの対策はインチキばかり
上記で述べた様な批判が強まった結果かどうか、今頃になって「軽減税率」とかの議論がはじまっています。しかしこの制度は、はっきり言ってインチキです。その理由も幾つもあるので、以下に列記します。
①軽減の度合いが低過ぎる。
実際に軽減税率を導入している各国の例を見ると、食料品や医薬品などの税率は「半分以下」であり、米国の様に「生活必需品は消費税ゼロ」という国も多いです。本物の軽減税率とはこういうのを言うのであって、日本みたいに僅かな差を付けて「軽減税率」と称している国など、どこにもありません。つまりこれは「ナンチャッテ軽減税率」なのです。
②対象品目の決め方がデタラメすぎる
例えば「食料品は8%、外食は10%」というルールは既に大きな話題になっています。つまりハンバーガーを買って「ここで食べます」と言えば10%で「持ち帰ります」と言えば8%になる訳です。そんな制度にすれば、口では「持ち帰ります」と言って、その辺で食べ始める人とか続出するのが目に見えています。しかし財務省に言わせれば「そんなの、店の責任で何とかしろ」という事らしいですよ。さすが、ハンバーガーなんて買わない身分の人達はいう事が違います。もっと言えば、食材ならたとえ100g三千円の松坂牛でも税率8%、外食なら380円の牛丼でも税率10%になるのです。
更に更に、自動車や住宅への減税すら検討されている様です。自炊する余裕すら無く牛丼などで日々ようやく食いつないでいる人からも容赦なく搾り取った税金を、車や家や松坂牛を買える余裕のある人達に還元する訳ですね。逆進性の強化にも程があります。
③手続きが煩雑になる
複数税率を導入し、品目により税率が異なる。考えただけで複雑です。もともと消費税導入の際には「簡素で解り易い税制がメリット」とか言っていた筈ですが、その話はどこへ行ったのでしょう。もぅ、増税の為なら「何でもアリ」らしいですね。「手間はタダ」とでも思っているのでしょうか。
④官僚の権益がますます増大する
精度を複雑にして「あれは軽減対象、これは違う」とかやればやるほど、実質的にそれを決める監督官庁(つまり官僚)の権限が強くなります。実際に、某大手新聞社などは新聞を軽減税率の対象にして欲しいが為に、一生懸命「増税推し」の記事を書いては財務省の御機嫌取りをしています。口では「権力監視が報道の役割」なんてカッコ良く綺麗事を言ってても、本当に権力を持っている相手には尻尾を振るしかないのが情けない現状です。
⑤軽減税率以外の対策も、どれもこれも酷過ぎる
さっきもちょっと住宅ローン減税やエコカー減税の話をしましたが、それ以外の対策も酷いものしか出てきません。ワザとですか?何なの、その「2万円払えば2万5千円分の商品券が買える」って。低所得者限定とか言ってるけど、その2万円という「まとまったお金」が用意できないんですよ、貧しい人は。舐めてんのか。しかもマイナンバーで管理だと?煩雑過ぎて話しにならない。あと「クレジットカードでポイント還元」てのも酷い。貧しい人はそもそもクレジットカードを作れないでしょ。どこまでテキトーで場当たり的でなりふり構わないんですか。増税しなけりゃ済むだけの話なのに、それだけは何が何でも止めようとしない。
⑥「搾り取った金の一部だけ返す」なんてゴマカシに過ぎない
どれほど小手先の「対策」を行おうが、国全体でみれば「国民から取り上げたお金の一部だけを国民に返す」という形は変わりません。その意味で、確実に「国民に痛みを強いる」「経済成長を阻害する」のは間違いないのです。
3)増税しても社会保障費には回らない
前回の8%への増税の時に「増税分は全額社会保障に回る」と思っていた人も多いと思います。実際、政府もその様に説明していました。しかし現実を見れば、それは完全に嘘だったのが解ります。そして今度は「10%の増税時には、増税分を社会保障費に回す」と言い出しています。「前回の理由付けは嘘だった」と自白したのも同然です。
4)世界中の高名な経済学者が日本での消費税増税に反対している
冒頭に述べた世界的な経済学者のスティグリッツもクルーグマンも(いずれもノーベル経済学賞受賞者です)日本の消費税増税には反対しています。更に、皆さんは「トマ・ピケティ」という経済学者を御記憶でしょうか。「放置すると貧富の差は自然に拡大する(だから再分配政策が重要)」と説いた「21世紀の資本」が大ベストセラーになり、来日した際にはマスコミも野党も大注目し「ピケティブーム」とまで言われた新進気鋭の経済学者です。しかしその「ピケティブーム」、あっという間に消えてしまい、今では取り上げる人も殆どいません。何故でしょうか。
それは、来日した際に彼が「本当の事」を言ってしまったからです。そう「消費税増税には反対」と口にした途端、どのメディアも彼を取り上げるのに及び腰になってしまいました。これこそ「財務省への忖度」が強力に働いた結果でしょう。逆に言えば、消費税増税に賛成している人を大手マスコミは攻撃しません。出来ないのです。財務省が怖いから。
その例をもう一つ挙げましょう。皆さんはお気付きでしょうか。あれほど騒いでいた「モリカケ」報道も、つい先日、2018年10月を境に影をひそめてしまいました。何があったのか。ちょうど「阿部首相が2019年10月からの消費税増税を表明(←これ自体フェイクニュースだと私はみなしていますが)」と大きく報じられてからです。繰り返しますが、こういうのこそ、本当の意味での「忖度」と言うべきでしょう。
5)消費税導入の目的は「直間比率の是正」にあった
導入時の事を覚えておられる方なら御存知かもしれません。「直間比率」とは直接税(所得税や法人税など)と間接税(消費税や酒税、ガソリン税など)の比率の事です。当時「日本の税制は直接税に偏っているのでもっと間接税を増やすべき」という議論があり、その為に大型間接税として消費税が導入されたのです。つまり「社会保障費に充てる」などというのは後付けの屁理屈に過ぎません。表立って語られませんが現在でも、増税の真の目的(の一つ)は「直間比率の是正」です。その証拠に、消費税が増税される度に所得税と法人税は減税されているではありませんか。これが、富裕層や大企業が積極的に消費税増税に反対しない大きな理由でもあります。
6)そもそも、増税そのものが不要、有害
最後に最も重要な点です。
ここまでずっと述べてきた通り「日本の財政は世界一健全」です。故に、増税自体が全く不必要なのです。日本の財政が健全である事は幾つもの証拠から明らかであり、先に述べたIMFの報告書にも明記されています。そして、日本の景気回復は未だに道半ばです。景気を回復させようという時には、増税などもってのほか、まさに「禁じ手」です。
以上より、結論としては「消費税はどこからどう見ても廃止もしくは減税すべき。最悪の場合でも据え置き。増税など問題外でありそもそも検討にすら値しない」となります。
10.まとめ
1)社会保障費とは医療・介護・福祉に使うお金
国民が幸福に生きて行く為に必須なので、これをケチるのは大間違い
2)少子高齢化は社会保障費増大の原因ではない
他の先進国では高齢化を社会保障費増大の言い訳にしたりしない
少子化はむしろ社会保障費をケチった結果
3)普通に経済成長すれば社会保障費など余裕で賄える
わざと成長を妨げている勢力がある
最大の要因は国債を増やさないこと
4)日本の財政は世界一健全
この事は複数の客観的証拠から明らかである
なので「国の借金」はもっともっと増やせるし、むしろ今は「積極的に増やすべき」
5)消費税増税は天下の愚行
何処から見ても欠点だらけの悪税、利点は殆ど無い
絶対に増税すべきではない、むしろ減税(できれば廃止)こそが正解
11.更に勉強したい人の為に
もう少しだけ勉強しようと思った人には、まず以下の本がオススメです。
1)井上純一: 「キミのお金はどこに消えるのか」, 角川書店, 2018.
マンガなので読みやすい。でも監修は飯田泰之氏(明治大学経済学部准教授)なので内容には信頼がおける。この本を取っ掛かりにして経済を学ぶのも良いかも。
2)ブレイディみかこ, 松尾匡, 北田暁大: 「そろそろ左派は経済を語ろう」, 亜紀書房, 2018
本文で述べた金融緩和・財政出動による景気回復は、本来なら左派的な経済政策であり、文中に出てきたクルーグマンもピケティも左派の経済学者です。更に本書の執筆者の一人である松尾匡氏も、バリバリの左派中の左派です。しかし日本の野党や左派は「安倍政権の政策である」というだけの理由で金融緩和を否定します。もうそろそろそういう事は止めて「アベノミクスの(利点を認めたうえで)欠点を正しく批判しよう」というのが、この本での主張です。
更新履歴
2019年08月28日:誤字訂正(消費是→消費税)その他記載やリンク追加など
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